ゴルフボールはなぜ曲がる?スピンとフェース角の関係を解説

練習場のマットの上で、また同じ球が出る。狙ったよりずっと右へ、しかも打ち終わってから、じわじわ右へ逃げていく。「なんで曲がるんだろう」。「そもそも、これって横回転がかかってるの?」。「開いて当たったから右に飛んだ、で合ってるのかな」。たぶん、多くの人が一度は口の中でつぶやいたことのある疑問だと思う。

先に、いちばん腑に落ちるところだけ。ゴルフボールは「サイドスピン」では曲がっていない。曲げているのは、傾いた回転軸のほう。そして曲がりの向きと量は、フェースの向きとクラブの軌道、その2つの「差」で決まる。昔よく言われた「軌道が出球を決めて、フェースが曲げる」は、実は担当が逆だった。ここを知ると、あの右への逃げ球が、少しだけ怖くなくなる。

曲がりの正体は、横回転じゃなかった

まず、そもそも球はなぜ「横」へ動くのか。ここには、マグヌス効果というちょっとかっこいい名前がついている。回転しながら飛ぶ球には、進行方向と垂直な力が働く。ゴルフボールも、その物理からは逃げられない。

バックスピンがかかると、ボールの上と下で空気の流れに差が生まれる。その差が揚力になって、ボールを上へ持ち上げる。だから50グラム足らずの小さな球が、200ヤード以上も宙に浮いていられる。考えてみると、けっこう不思議なことをしている。

ここがポイント。もし回転軸がまっすぐ水平なら、力は真上にしか働かない。ボールはまっすぐ飛ぶ。ところが軸が傾くと、その揚力の一部が「横向き」に分かれてしまう。これが曲がり。正直なところ、曲がりって、まっすぐ飛ばすための力の「おすそ分け」が横にこぼれた状態に近い。悪者というより、同じ力の使い道が少しズレただけ、という感じ。

で、「スライスはサイドスピンのせい」という説明。よくあるし、直感的でわかりやすい。私も長いこと、そう説明されて素直にうなずいていた。でも、物理的には正確じゃない。ボールは1本の軸を中心に回っていて、横回転と縦回転が別々にかかっているわけではない。スライスのとき実際に起きているのは、バックスピンの軸が右に傾いていること。その傾いた軸が、揚力を右へ向けているだけ。

実は、計測器メーカーも近ごろは「サイドスピン」という言葉をほとんど使わなくなっている。代わりに登場するのが「スピン軸(spin axis)」という言い方。軸が右に傾けば右へ、左に傾けば左へ。曲がりは、この傾きの角度に、驚くほど素直に比例する。

たった1度の傾きが、遠くで大きな差になる

ここで数字を一つ。回転軸の傾きが1度あると、飛距離100ヤードあたり約0.7ヤード横へずれると言われている。たった1度で、だ。最初にこの数字を見たとき、正直「そんな小さいの?」と思った。

ところが、これがドライバーの230ヤードになると話が変わる。軸が10度傾くだけで、十数ヤード単位の曲がりになる。ケースによりますが、強めのスライスやフックだと、軸が20度以上傾いていることも珍しくない。あのOBギリギリの一発は、たぶんそのあたり。

つまり曲がりは、わずかな軸の傾きが、距離で増幅された結果。小さな原因が、遠くで大きな差になる。ゴルフがやたら繊細な競技に感じられる理由の一つが、たぶんここにある。入り口はほんの1度なのに、出口はグリーンを一つ外すくらいの差になっている。

昔の常識は、なぜ静かに間違っていたのか

長いあいだ、こう教えられてきた。「ボールはクラブの振った方向、つまり軌道に飛び出して、フェースの向きで曲がる」と。

正直なところ、私も最初はそう信じて疑わなかった。練習場で球が右に飛び出すと、「ああ、外から振ったからだ」と、確認もせずに納得していた。手元にあった本にも、だいたいそう書いてあったし。

ところが、この説明だとどうしても矛盾が出る。たとえばプロが、いったん右へ出して左へ戻すドローを打つとき。この理論では筋が通らない場面が出てくる。うっすら「あれ?」とは感じていた。でも、その違和感は長いあいだ、なんとなく放置されていた。

転機になったのは、高速ドップラーレーダーの登場。2009年、トラックマンが計測データを公開して、それまでの常識がひっくり返った。データが示したのは、こういうこと。出球の方向は、軌道ではなく「フェースの向き」がほぼ決めている。ドライバーで約85%、アイアンで約75%がフェース由来。残りが軌道の影響。

そして曲がりのほうは、フェースと軌道の「差」で決まる。フェースが軌道より開いていれば右へ、閉じていれば左へ。つまり昔の理論は、出球と曲がりの担当を、ちょうど逆に取り違えていた。長年信じていた常識が反対だったと知ったときは、ちょっとした脱力感があった。

面白いのは、両者が同じ結論になる場面もあること。フェースも軌道も目標にまっすぐなら、どちらの理論でもまっすぐ飛ぶ。ズレが出るのは、フェースと軌道が食い違ったときだけ。だから昔の理論でも「まっすぐ打てる人」には、矛盾が見えにくかった。例外が、うまいこと隠れていた、とも言える。

フェースと軌道の「差」が、軸の傾きに化ける

この関係を物理できちんと説明する枠組みが「Dプレーン」。物理学者ジョーゲンセンが著書『The Physics of Golf』で示した考え方で、いまの計測器の理論的な土台になっている。

ざっくり言うと、こう。インパクトの瞬間、クラブが動く方向の線と、フェースが向く方向の線。この2本がつくる面の傾きが、そのまま回転軸の傾きになる。2本の線が一致すれば軸は水平で、ボールはまっすぐ。2本がズレるほど面が傾いて、軸も傾く。曲がりの大きさは、このズレの大きさに比例する。難しそうに聞こえるけれど、要は「フェースと軌道の差が、軸の傾きに化ける」という、その一点。

だから球筋は、フェースと軌道がそれぞれ目標に対してどこを向くか、その組み合わせで決まる。たとえばフェースは目標を向いていて、軌道がそれより右なら、フェースは軌道に対して閉じている。すると出球は目標の近くから、そこで左へ戻る。軸が左に傾くから。逆にフェースが軌道より開けば、出てから右へ逃げていく。

ここでちょっとややこしいのが、「どちらを基準に見るか」。出球はフェースの絶対的な向きで、曲がりはフェースと軌道の相対的な差で。基準が二重になっている。これがゴルフのわかりにくさであり、同時に面白さでもあると思う。頭の中で二つの物差しを同時に持たないといけない。

「強く振った球ほど曲がる」の、半分だけ本当な話

よくあるのが、「しっかり振った球ほど大きく曲がる」という思い込み。これ、半分正しくて、半分間違っている。

曲がりの「角度」を決めているのは、あくまでフェースと軌道の差。スピードそのものが直接曲げているわけではない。ただし、ボールスピードが上がれば総スピン量も上がりやすくて、同じ軸の傾きでも横への力は増える。さらに飛距離が伸びれば、同じ傾きでも着地点のズレは大きくなる。

だから正確に言うと、「速いから曲がる」のではなく、「速いと、同じ傾きの結果が遠くで拡大される」。原因はあくまで軸。スピードは、その結果を大きく見せる増幅器にすぎない。ここを分けて考えられると、「今日は振りすぎたから曲がった」という自己診断も、少し景色が変わってくる。

芯を外すと、なぜか軸が傾く

軸を傾けるのは、フェースと軌道だけじゃない。打点も効く。これが「ギア効果」と呼ばれるもの。

ドライバーのように重心が深いクラブでは、芯を外すとヘッドが歯車のように回る。トウ、つまり先端寄りに当たるとヘッドが反時計回りにねじれて、ボールには逆向きの回転がかかり、軸が左へ傾く。ヒール、手前寄りなら逆で、軸が右へ傾く。

実は、同じスイングでも打点が数ミリずれるだけで球筋が変わってしまう。これがドライバーのあの気まぐれさの一因。芯を外したはずなのに、なぜか曲がりが途中で戻ってくる、あの不思議な現象も、このギア効果で説明がつく。あれは偶然じゃなかったんだな、と。

ギア効果は横だけでなく、縦にも働く。重心より上で当たればフェースが上を向く向きにねじれて、スピンが減って打ち出しが上がる。下で当たれば逆で、スピンが増える。ここまで来ると、ボールの飛び方は「フェースの向き・軌道・打点」という3つの要素が、すべて回転軸の傾きとスピン量に集約されていく構図が見えてくる。バラバラに見えていた現象が、1本の軸の話に、静かに収束していく。

結局、すべては2つの数値に行き着く

整理してみる。曲がりに関わる要素は、確かに複数ある。フェースの向き、軌道、打点。でも最後は、たった2つの数値に集約される。回転軸がどれだけ傾いているか。そして、スピンがどれだけ強いか。

軸の傾きが曲がる向きと角度を決めて、スピン量と飛距離がその結果を拡大する。フェースの向きも、軌道も、打点も、入り口が違うだけで、出口はこの2つ。

正直なところ、これに気づいたとき、ゴルフの見え方が少しだけ変わった。球が曲がるたびに、「軸がどっちに傾いたんだろう」と考えるようになった。原因を1本の線でとらえられるようになると、あの練習場の小さな溜息が、少しずつ減っていく。派手な発見じゃない。でも、視界がふっと開ける、あの感覚は確かにあった。

気になりやすいところを、いくつか

サイドスピンって、本当に存在しないの? 物理的には「独立した横回転」は存在しない。ボールは1本の軸で回っている。横へ曲がるのは、その軸が左右に傾いているから。便宜的な呼び名、くらいに思っておくとちょうどいい。

出球の方向は、フェースと軌道どっちで決まる? ほぼフェースの向き。計測データではドライバーで約85%、アイアンで約75%がフェース由来。軌道の影響は残りの15〜25%にとどまる。

曲がりの大きさは何で決まる? フェースと軌道の「差(フェース・トゥ・パス)」。この差が大きいほど回転軸が傾いて、曲がりも大きくなる。差がゼロなら、まっすぐ飛ぶ。

軸が1度傾くと、どのくらい曲がる? 目安として、飛距離100ヤードあたり約0.7ヤード。230ヤードなら軸10度で十数ヤード。わずかな傾きが、距離で拡大される。

速いと曲がりも大きくなる? ケースによる。速さ自体が角度を決めるのではなく、総スピン量と飛距離を増やすことで結果を拡大する。原因は軸の傾き、スピードは増幅器、という関係。

バックスピンと曲がりは関係する? 大いに関係する。曲がりはバックスピンの軸が傾いた結果だから。バックスピンの揚力の一部が横へ向くことで、ボールが曲がって見える。

球が曲がるたびに、軸がどちらへ傾いたかを、ふと思い浮かべてみる。それだけで、次にコースへ立ったときの景色が、ほんの少し違って見えてくるかもしれない。

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