パターの慣性モーメント(MOI)とは?ミスへの強さ

芯を外した。あ、これは方向も距離もダメだ——そう覚悟した次の瞬間、ボールは思ったより曲がらず、するっと転がっていった。あれ、いまの、助かった。そういう経験、ありませんか。

「同じミスなのに、パターによって結果が違う気がする」「トゥ寄りに当たったのに、なぜか大きく外れなかった」「そもそもMOIって言葉、よく見るけど何のこと」。カタログを眺めていると、この三文字がやたら目につきます。慣性モーメント、と書かれても、正直ぴんとこない。

この文章は、その正体を物理でほどいていくだけのものです。上手くなる方法ではありません。ただ、外した一打がどうして救われたり救われなかったりするのか、その理由が腑に落ちる。それだけで、道具の見え方は少し変わります。

MOIって、要するに「回りにくさ」

正直なところ、慣性モーメントという言葉はいかつい。数式アレルギーの人なら、この時点でページを閉じたくなる気持ち、わかります。

でも実は、中身はそんなに複雑じゃありません。慣性モーメントとは、物体の「回転のしにくさ」を表す物理量。それだけです。重い荷物ほど動かしにくいのと同じで、回転にも「動かしにくさ」がある。その動かしにくさに名前をつけたもの、と思ってもらえれば十分です。

面白いのは、この回りにくさが、重さそのものでは決まらないという点。物理学的には、重さが回転の中心から遠くに置かれているほど、MOIは大きくなります。パターのヘッドで言えば、重量をトゥ側とヒール側の端っこに振り分けるほど、ねじれに強くなる。中心にぎゅっと重さを集めた形より、周辺にばらまいた形のほうが回りにくい。

よく引き合いに出されるのが、フィギュアスケーターの回転です。腕を縮めると速く回り、広げるとスッと回転が遅くなる。あれと、まったく同じ原理。腕を広げた分だけ、体は回りにくくなっている。パターのヘッドも、重さを外へ広げれば同じことが起きます。テレビで観ていて「なんで腕を広げると急に遅くなるんだろう」と一度でも思ったことがあるなら、その疑問はもうMOIの入り口に立っている。

回転のしにくさ、という考え方自体は、物理の世界ではありふれたものです。ドアを開けるとき、ノブが蝶番から遠くにあるほど軽い力で開くのも、扇風機の羽根の回り方も、根っこは同じ「重さと距離の関係」。パターだけの特別な話ではなく、身の回りにずっとあった物理が、たまたまヘッドの中でも起きている。そう思うと、少し親しみが湧きませんか。

そしてここが地味に効いてくるのですが、MOIは「重さ×中心からの距離の二乗」で効いてくる。距離が二乗、というのがミソです。重量をほんの少し外側に置くだけで、MOIはぐっと増える。だからメーカーは、単にヘッドを重くするのではなく、いかに重量を外側へ追い出すかを競っている。ヘッドの周辺に重りが埋め込まれた設計を見かけますが、あれはこの二乗の効果を狙ったもの。同じ重さでも、置き場所ひとつで差がつく。

芯を外した瞬間、ヘッドの中で何が起きているか

では、そもそも芯を外すと何が起きているのか。ここを押さえないと、MOIのありがたみが伝わりません。

物理的に言うと、インパクトの衝撃が、ヘッドの重心からズレた位置に加わります。すると、ヘッドをねじろうとする力が生まれる。トゥ側で打てばフェースが開く方向へ、ヒール側で打てば閉じる方向へ、わずかに回ろうとする。ほんのわずか、なんですけどね。

このねじれが、二つの悪さをします。ひとつは方向。フェースの向きが変われば、当然ボールの打ち出し方向も変わる。もうひとつは距離。ねじれる分だけエネルギーが逃げて、転がる距離が落ちる。よくあるのが、芯を外したパットが方向も距離も両方まとめて外れるケース。ショートして、しかも右にこぼれる。あの、二重に凹むやつです。

厄介なのは、当たった本人には、そのねじれがほとんど感じ取れないこと。ほんのわずかな回転なので、手元にはっきり伝わるわけではない。だから「ちゃんと打てたはずなのに、なぜ」という戸惑いだけが残る。原因が見えないミスほど、気持ちを削られるものはありません。実は、その見えない犯人の正体が、この重心からズレた衝撃によるねじれだった、というわけです。

MOIが小さいヘッドは、このねじれをわりと素直に許してしまう。逆に、MOIが大きければ、同じミスヒットでもねじれが抑え込まれる。ここが、いわゆる「ミスへの強さ」の正体でした。

なぜ抑え込めるのか。理屈はシンプルで、MOIとはそもそも「ねじる力への抵抗」そのものだから。同じズレた衝撃を受けても、MOIが大きければヘッドは向きを保ちやすく、フェースの開閉が小さくなる。データ上、周辺に重量を配分したヘッドは、トゥ・ヒール寄りに当たっても打ち出し方向のブレが小さいとされています。ケースによりますが、芯を1センチほど外しても、MOIの大きいヘッドは結果の差が小さくまとまる。

そしてこの効果、方向だけじゃなくて距離にも効きます。ヘッドがねじれると、インパクトのエネルギーの一部が回転に逃げて、ボールに伝わる力が減る。MOIが大きければこの漏れが小さいから、芯を外しても距離のロスが抑えられる。周辺重量配分のパターは、トゥ・ヒール寄りのヒットでも転がる距離の落ち込みが小さいと言われます。外したのに、飛距離まで守ってくれる。これが、MOIがミスに強いと言われる二つ目の理由。

念のため言い添えておくと、これは「上手く打つ」話ではありません。外したときにだけ、そっと助けてくれる。保険みたいな物理です。

マレットとブレード、どちらが偉いわけでもなく

パターの形は、ざっくりマレット型とブレード型に分かれます。マレット型は大きく張り出していて、重量を周辺に配分する余地が大きい。だから一般的な傾向として、MOIが大きくなる。ブレード型は細身で、重さが中心寄りになりやすく、MOIは相対的に小さめ。近年のマレットが「ミスに強い」を売りにしているのは、この形の理屈から来ています。

で、ここで結論を急ぎたくなる。じゃあMOIが大きいマレットが正解じゃないか、と。

最初は私もそう思っていました。半信半疑どころか、大きいほど正義くらいに思っていた。でも、そう単純じゃないんですよね。

ねじれにくい、ということは、裏を返せば「意図的に動かしにくい」ということでもある。フェースを繊細に開閉させて距離感やラインを微調整したい人にとっては、大きすぎるMOIが「動かなさ」として感じられることがある。よく言われるのが、直進性を重視するならMOIの大きいマレット、操作性やフィーリングを重視するならブレード、という整理。どちらが優れているという話ではなく、相性の問題です。

もうひとつ、見落としがちなのがストロークとの噛み合い。まっすぐ動かすタイプの人ほど、大きなMOIと相性がいい。逆に、フェースを自然に開閉させて弧を描くタイプは、ブレード寄りが合いやすいと一般に整理されます。ケースによりますが、MOIの大小は、その人のストロークの個性とセットで考えるべきもの。数字が大きいから偉い、という単純な話ではない。

それに、ヘッドが大きく重くなると、構えたときの見え方も、ストロークの感覚も変わってきます。ミスに強くても、感覚に馴染まなければ、いい結果にはつながらない。道具って、そういうところが難しい。

「変えたら入る」の、その先

最後に、いちばん冷静な話を。

MOIの大きいパターに変えても、パットが劇的に上手くなるわけではありません。MOIが助けてくれるのは、あくまで「芯を外したとき」の結果だけ。芯できっちり打てているなら、MOIの差はほとんど表に出てこない。

よくあるのが、道具を変えれば入るはず、と期待して、思ったほど変わらなかったケース。あの小さな溜め息、身に覚えのある人は多いはず。方向を決める大部分は、結局フェースの向きとストロークで、そこはMOIの管轄外なんですよね。MOIはミスの許容度を上げる要素であって、狙いの精度そのものを上げる要素ではない。

だから、こう捉えると気が楽です。MOIは、良い一打を作る道具ではなく、悪い一打を軽くする道具。過度な期待もしないし、変えても入らないからと失望もしない。

芯を外した日、ふだんより少しだけ大叩きが減っていた。それに気づけたら、たぶんこの物理をちゃんと味方につけられている。ミスに強い、とは要するに、外したときに優しいということ。MOIという三文字は、その優しさがどこから来るのかを、静かに教えてくれます。

ちょっとした疑問に、短く答えておく

MOIって結局なに?
回転のしにくさを表す物理量。パターでは、芯を外したときのヘッドのねじれへの強さを指します。大きいほどミスに強い。

なぜ周辺に重量を置くとMOIが大きくなるの?
重さが回転中心から遠いほど、ねじれにくくなるから。腕を広げたスケーターの回転が遅くなるのと同じ原理です。

芯を外すと何が起きてる?
衝撃が重心からズレて加わり、ヘッドがねじれる。フェースが開閉して方向がズレ、エネルギーが逃げて距離も落ちます。

マレットとブレードでMOIは違う?
違います。周辺に重量を配りやすいマレット型のほうが、一般的な傾向としてMOIは大きい。

MOIは大きいほどいい?
一概には言えません。直進性は増しますが、繊細な操作はしにくくなる。フィーリング重視ならブレードが合う場合もあります。

変えたらパットが上手くなる?
残念ながら、そうはいきません。MOIは外したときの結果を助けるだけ。芯で打てていれば差は出にくく、狙いの精度自体は上げません。

どれくらい外してもMOIは効く?
ケースによりますが、1センチ程度のズレなら、MOIの大きいヘッドは方向も距離もブレが小さく収まる傾向があります。

MOIと重さは同じもの?
違います。MOIは重さの「配置」で決まる。同じ総重量でも、周辺に配れば大きくなります。

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